アメリカの重度自閉症の少年イド・ケダーくんが書いた本の翻訳版が日本で出版され話題を呼んでいます。
コミュニケーションに障害を持つ自閉症。
イドくんは日々何を思い、考えていたのでしょうか。
会話ができない重度自閉症の15歳の少年が文字盤で綴った1冊の本。
全米で大絶賛されたこの本には、何が記されているのでしょうか。
多くの人に伝わっていなかった自閉症の「真実」についてお伝えしていきます。
目次
重度自閉症の少年は高い知性、言語能力、感性を持っていた!
イド・ケダーくんはどんな子なのでしょうか。
彼は会話のできない重度の自閉症であり、2歳8か月の時に自閉症と診断されました。
3歳から行動療法に取り組むものの、改善が見られず医者からは深刻な知的障害があると告げられていました。
ところが、7歳の誕生日を迎えるころ奇跡が起こります。
イドくんのお母さんがイドくんの鉛筆を握る手を支えていたところ、イドくんが自分の意思でかすかに力を入れ、文字を書こうとしていることを偶然発見しました。
イドくんはこれまで、話すことはなく、唸り声をあげるだけでしたし、文字も書いたこともありませんでした。
しかし、イドくんはずっと頭の中で言葉と文字を理解していたのです。
その後は文字盤を使ってのコミュニケーション方法を学び、これによって高い知性、言語能力、感性を持った少年であることが明らかになりました。
イドくんは自身のエッセイの中で、自分の障害のこと、行動や考えていることなどを伝えています。
これまで自閉症は行動の原因がはっきりしていないものもありましたが、自閉症であるイドくん本人が示したことで確信的になってきたこともあります。
自閉症の少年が伝えたい7つのこと
『自閉症のぼくが「ありがとう」を言えるまで』イド・ケダー著/ 入江真佐子訳/ 飛鳥新社(2016/10/15)より
イドくんが周囲の人に伝えたかったことを本の中から抜粋してご紹介します。
1. 手をぱたぱたさせるわけ
勢いに乗ってしまうと、やめなきゃと思ってもやめられない。
「やめなさい」とぼくをたしなめる人の言葉よりも、自分の衝動のほうに耳を傾けてしまう。うっぷんを吐きだすために刺激がほしいのだ。
手をぱたぱたさせたり、繰り返し変な叫び声をあげたりすることを自己刺激行動または、「スティム」といいます。
スティムは緊張やストレスを感じた時に、これらを和らげるために起こります。
口に水を含んで出すなど、ただ楽しからするスティムもあります。
スティムをしている間はとても心地がよく、刺激されている感覚がありやめることができません。
周りの人を不快にさせてしまったり、じろじろ見られても、スティムをしている時はそれどころではなく、やめたくてもやめられない衝動に駆られてしまいます。
2. 思っていることを伝えられない
みなさんはそこの言葉がしゃべれない国に行ったことはあるだろうか。
思っていることをだれにも説明できないのはおそろしいことだ。
会話のできない自閉症者は、この孤独と一生折りあっていかなくちゃならないのだ。
一般的に重度自閉症者は知的障害があるとされており、しゃべることができないため言葉を理解できていないと思われています。
そのため、赤ちゃん言葉や簡単な単語を使って話かける人がいますが、実はイドくんのように、頭の中では言われていることを理解しているケースもあります。
本当は普通に話かけてほしいのです。
3. いうことを聞かない身体はたいへんだ
字を書いたりするのに必要な、細かい手の動きがとくにむずかしい。手がまるで野球のミットのようで、指はバナナのようだ。頭ではなにをしたいかがわかっているのに、指がいうことをきいてくれない。
自閉症は体は強いものの、反応が鈍く、動作も遅くなってしまうという特徴があります。
また自閉症は筋力が弱いため、普段の生活に必要な動作もうまくできず、重度の場合は人の助けが必要になります。
筋力が弱い場合にはトレーニングも取り入れていく必要があります。
感覚が鈍感で、ものを取る際、指示されているものを頭では理解できているにもかかわらず、ものが置いてある位置がうまくつかめないと、自分が思っていたものとはまったく違う方向へ手が伸びてしまうことがあります。
知能が低く、周りから物の区別もできないと言われ、もどかしく悔しい思いをしています。
4. 相手の目を見れない理由
相手の目を見るのが苦手だ。
相手の目に反射する光を見ると、心が落ち着かなくなるからだ。
イドくんは「きちんと目を見なさい」といわれるまで、自分が相手の目を見ていないことに気づかないと言います。
目を見ない方が、落ち着き不思議と相手の話に耳を傾けることができるそうです。
5. 人のものをとってしまう理由
飲みものや食べものを見たとたんに、衝動的にかっぱらってしまうことがある。それで怒られるたびに自分が恥ずかしくなる。
でもその瞬間は、それがほしくてたまらないのだ。
衝動にかられる時は一瞬だとしても考えることが困難になります。
考えることができれば、抑制できるのではないかと思うものの、外的要因からくる衝動には打ち勝てず、とっさに反応してしまうことがあります。
6. 沈黙の世界で生きている
ぼくは幼いころから字が読めた。書くこともできた。
ただ指が不器用すぎてそのことを示せなかった。
学校ではABCのテープを何度も何度も聞かされ、1+2=3の足し算を何度も何度もやらされてすわっていた。
悪夢だった。心底うんざりしていた。
そのせいでぼくの内側は死んでしまった。
しゃべることのできない重度の自閉症者は沈黙の世界の中で生きています。
言葉を理解していること、ただうまく伝えられないのだということをわかっているのは自分だけという孤独な世界の中で生きています。
希望が薄らぐのは無理はない。一種の地獄だとイドくんは言います。
自閉症者が求めているのはコミュニケーションをどうとったら良いのかその方法でした。そのツールを教えて欲しいのです。
7. 嘘をつく表情
ぼくの顔はほんとうの感情を隠す仮面だ。
無表情で落ち着いているように見えていても、内心はそうじゃない。
笑っていたり、悲しんでいたり、あきれて目をくるりと回していたり、興味津々だったり、興奮したりしているかもしれない。
それでもぼくの顔は無表情だ。
引用:『自閉症のぼくが「ありがとう」を言えるまで』イド・ケダー著/ 入江真佐子訳/ 飛鳥新社(2016/10/15)より
感情とは違う表情が出てきてしまい、自分でもうんざりしてしまうと言います。
また思っているよりも怒ってしまったり、悲しんでしまったり、自分でもコントロールができずにいるのです。
緊張したり、気まずいときに笑ってしまうこともあり、誤解されてしまうと言います。
重度自閉症のコミュニケーションを救う文字盤・アプリ
いかがでしたでしょうか?
一般的に自閉症がどういった発達障害なのかわからない方も多くいらっしゃると思いますし、イドくんの言葉を読み、自閉症の誤解されていたことがらを知った方もいるのではないでしょうか。
重度の自閉症の子は話すことができない子もいますが、文字盤やキーボードを使ってコミュケーションを取れるという事実はイドくん以外でも報告されています。
また、現在はアプリケーションの開発も進んでおり、文字を打つと、発音してくれるものもあります。
アプリケーションを使って周囲の人とコミュニケーションをとれるようになった重度の自閉症者もいます。
話すことのできない、自閉症の子どもにとって、ITの進歩を革命でもありました。
今回紹介したこちらの書籍にはイドくん自身が語る、自閉症の真実が多く語られています。
自閉症者の生きる世界を知ることができますので、読まれてみてはいかがでしょうか。
『自閉症のぼくが「ありがとう」を言えるまで』イド・ケダー著/ 入江真佐子訳/ 飛鳥新社(2016/10/15)
それでは!